「日本製であれば、海外でも売れる」。
——これ、まず、外れます。
私も、そう信じていました。自信のある日本製商品を、アメリカの倉庫にドンと送り込んで。結果、ほとんど売れずに、在庫だけが残る。そんな経験を、何度もしてきました。
(あれ……モノは良いはずなのに、なんで……?)
申し遅れました。河田眞二(かわだ しんじ)と申します。
地方の中小企業の商品を、海外ECで売る。この「越境EC」の仕事を、私は11年、事業としてやってきました。自分たちで商品を仕入れて海外で売り、成功も失敗も、まるごと。岐阜県の県産品を海外に出す事業の事務局も、委託事業・補助事業あわせて8回以上担ってきました。販売初年度で1億3000万円以上を売った現場も、経験しています。
その11年で、いちばん腹に落ちたのが、さっきの話なんですよね。
越境ECは、”良いモノは売れる”ゲームじゃない。売れるかどうかは、モノの良し悪しより、”どの順番で、どう設計するか”で決まる。
先日、ある展示会で、このテーマでセミナーの講師をやらせてもらいました。60分、現場で何度もころんできた話を、洗いざらい。
そこで、思ったんです。この「2026年前半の、越境ECのリアル」を、せっかくなので自分なりにまとめてみたい、と。
だからこのブログに、あのとき話した中身を、順番に、体系立てて残していきます。教科書のきれいごとじゃなく、現場でころんできた人間の実感として。
この1本は、その全体像。私たちが北米向け越境ECを「どこから、どの順番で始めたらよかったのか」を、まるっとお見せします。
(この経験に、いまのAIを掛け合わせたら——という話も、おいおい)
では、始めましょう。
なぜ今、アメリカなのか
アメリカのEC市場は、年間およそ1.2兆ドル。日本円にして約180兆円(1ドル150円換算)です。小売全体の約17%がECで、いまも年率10%近く伸び続けています(出典:米国勢調査局 Quarterly Retail E-Commerce Sales、2026年5月発表)。
正直に言うと、規模の”世界一”は中国です。アメリカはその半分ほどの、世界第2位。
でも、私がアメリカを勧める理由は、市場の大きさの順位じゃないんですよね。
日本の商品に、ちゃんと”値段をつけて”買ってくれる。そういう成熟した買い手が、いちばん多い国だから。安売り競争の土俵じゃなく、価値で勝負できる余地がある。
もちろん、簡単じゃありません。あとで話しますが、いまのアメリカ向け越境EC市場は”追い風”じゃない。実力の時代です。
それでも、最初の一歩をどこに置くかと聞かれたら、私は迷わずアメリカと答えます。
越境ECの「4つの入口」——どこから始める
私たちは、右往左往してきました。最盛期は13カ国以上に手を広げて、ヨーロッパにも東南アジアにも売っていた時期があります。でも——ヨーロッパ5カ国の売上を全部足しても、アメリカ1カ国にかなわなかった。コストは、ヨーロッパのほうがずっと高いのに。
だから今は、アメリカを中心とした北米に絞っています。売る入口は、大きく4つ。Amazon、Walmart、eBay、そして自社ECです。
4つを、私たちの11年の実感でざっくり比べると、こうなります。
| Amazon | Walmart | eBay | 自社EC | |
|---|---|---|---|---|
| 集客力 | ◎ 米国EC第1位。すでにそこに客がいる | ○ 第2位。EC成長率はAmazonの約2倍 | △ マニア層・ニッチに強い | ✕ ゼロ。全部自分で集める |
| 始めやすさ | ◎ 情報が体系化。ただし米国在庫(FBA)が前提 | ○ 審査あり。米国在庫前提(倉庫搬入は一工夫要る) | ◎ 日本から直送できる | △ 作るのは簡単。売るのが難しい |
| 費用感 | 月額+販売手数料+広告費(高騰中) | 月額無料。販売手数料のみ | 出品・販売手数料 | 月額+構築費+広告費 |
| 利益の出やすさ | △ 広告費が利益を圧迫 | ○ 競合が少なく広告費は比較的安い | ○ 高価格帯・ニッチなら | ○ 手数料は低いが、集客費しだい |
| ブランド構築 | △ 「Amazonで買った」としか記憶に残らない | △ 同じく”Walmartのお客様” | △ 専門店なら多少 | ◎ 顧客もデータも自社の資産になる |
| 役割 | 最初の一歩。テストと実績づくり | 第2の柱 | ニッチ・マニアに届ける | 最後に建てる”受け皿” |
※費用の細かい数字はよく変わるので、各プラットフォームの公式ページで最新を確認してください。
先に結論を言うと、おすすめの始める順番は決まっています。Amazon → Walmart →(eBayは役割で)→ 自社ECは最後。
なぜこの順番なのか。それが次の、いちばん大事な話です。
失敗しない「順番」——これが背骨
さっきの「日本製なら売れる」という思い込み。まずは、これを捨てるところからです。
そのうえで——越境ECでいちばん多い失敗は、商品でも、英語でもありません。“順番”を間違えることなんですよね。
いきなり自社ECサイトを立ち上げる。いきなり広告を回す。いきなり多商品を並べる。——どれも、順番が逆です。
正しい順番は、ざっくりこう。
商品を1つ選ぶ → アメリカでの売れ方をテストする → Amazonで実績を作る → 物流を整える → ページとレビューを磨く → そこからWalmartや自社ECへ広げる。
(あれもこれも同時に、ってやりたくなるんですよね。わかります。でも、それがいちばん遠回りなんです。)
一つ、テストしてから。この記事全体が、この”順番”の話だと思ってください。
なぜ最初はAmazonなのか(でも依存は怖い)
最初はAmazon。これは、ほぼ動きません。
理由はシンプルで、集客力がケタ違いだから。アメリカの人は、何か買うとき、まずAmazonで検索する。自分で客を集めなくても、そこに客がいる。しかもFBA(=Amazonの倉庫・物流サービス)を使えば、保管も配送も返品も、任せられる。
初めての越境ECで、集客と物流を同時に自前でやるのは、無理があります。だからまずAmazonなんですよね。
でも——ここが大事。Amazonだけに乗るのは、怖い。
私も、アカウントが止まりかけて、肝を冷やしたことが何度もあります。
だから「Amazonから始める。でもAmazonに依存しない」。この2つを、最初からセットで持っておいてください。
Walmartという第2の柱(※ここは触りだけ)
Amazonの次に来るのが、Walmart.comです。
アメリカEC市場の第2位。しかも、まだ日本のセラーが少ない。伸びしろのある”第2の柱”なんですよね。
Walmartの出店審査や、WFSという物流の使い方、生々しい実務は——正直、ここには書ききれません。別で、じっくりまとめます。
ここでは一つだけ。Amazonが軌道に乗ったら、次はWalmartを見てください。 それだけ覚えておけば十分です。
eBayは「役割」で使う
eBayは、”昔のチャネル”だと思われがちです。でも、消えていません。
使いどころは、はっきりしています。マニア向けの商品、レア物、少量・訳あり、オークション向き。——Amazonでは埋もれる商品が、eBayでは光ることがある。
つまりeBayは、メインじゃなく“役割”で使うチャネル。自分の商品がそこにハマるかどうか、で判断してください。
自社ECは”最後”に作る
「自社サイトを持ちたい」。気持ちは、すごくわかります。
でも、断言します。自社ECは、絶対に最後に作ってください。
理由は一つ。自社サイトは、集客力がゼロだからです。砂漠のど真ん中に、一軒だけお店を出すようなもの。どんなに良いサイトでも、人が来なければ売れません。
面白いのは、うちで売れているのは、圧倒的に”指名買い”。ある商品を、名前で探して買いに来てくれる人たちなんですよね。その”名前”は、AmazonやSNSで先に作るもの。
だから順番は、Amazonで名前を作る → 最後に、その受け皿として自社ECを建てる。これが正解です。
(使うツールは、いろいろあります。私たちのおすすめはShopifyですが、大事なのは”何で作るか”より”いつ作るか”。まずは、最後に作る——それだけ覚えてください。)
物流の全体像——FBMからWFSまで
越境ECは、”売る”より”回す”ほうが難しい。物流の話です。
物流には、段階があります。最初は日本から直接送る(FBM)。売れてきたらAmazonの倉庫(FBA)へ。さらに広がれば、アメリカ現地の倉庫(3PL)や、Walmartの倉庫(WFS)へ。
うちも、この順番で育ててきました。北米は、アメリカだけじゃなく、カナダ・メキシコも視野に入ります。
そして、通関と関税。ここは正直、大変です。以前あった「少額なら免税(de minimis)」という抜け道も、いまは廃止されました。細かい話は別の記事に譲りますが、ここでは一つだけ——関税も物流費も、最初から”売価に含めて”設計する。それが今の前提です。次の話に、つながります。
「売上」でなく「利益」で見る——着地コストから逆算
いちばん多い勘違いが、これ。売上が伸びれば儲かる、と思ってしまう。
アメリカは、”送料無料”が当たり前の国です。だから送料を別で請求しにくい。国際送料も、さっきの関税も、現地の倉庫代も、広告費も、為替も——ぜんぶ引っくるめて”着地コスト”として逆算しないと、売れているのに手元に残らない、が普通に起きます。
コストの種類は、とにかく多い。国際送料、米国の関税(15%前後)、現地の物流費(FBA・WFS・3PLの配送料や保管料)、広告費、返品、為替、送金手数料、商標や英訳の費用……。
一つ、数字を。うちの返品率は、2.76%から4.44%へ上がりました。業界一般は16〜20%と言われます。【要確認:自社実績の数字】それでも、返品ひとつで利益は簡単に溶けます。
目安として、日本価格の2.5〜3倍で売れる商品でないと、越境ECは厳しい。売上でなく、利益で見る。ここは徹底してください。
「日本製だから」ではなく「Made to Fit」——何を、どう選ぶか
序文でも言いました。「日本製なら海外でも売れる」——これは、いちばん危ない思い込みです。私自身、自信のある商品で何度も失敗しています。
トヨタやソニーのように名前が世界に届いているなら、”良いモノ”だけで売れるかもしれない。でも、私たちのような無名の中小ブランドは違う。だからこそ、“日本製”ではなく”Made to Fit”——その市場のお客様にとって、どんな違いがあるか、で選ぶ。
11年やってきて、売れる商品には3つの型があると見えてきました。
① ターゲットを絞る。 うちの原点は、左利き用のボールペンでした。速乾インクで、左利きでも手が汚れない。これが売れたので、ターナーやキッチンばさみ、栓抜きへ広げて、今もロングラン。
② 機能・専門性で尖らせる。 ただのピーラーは売れない。でも”業務用”のロングピーラーや、パンに切れ目を入れる専用のクープナイフは売れる。プロの道具として認識されると、強いんです。
③ 地域ブランドを、市場ごと作る。 岐阜の美濃焼の抹茶碗です。当時、海外で「Mino Ware」「Mino Yaki」で検索しても、ほぼ何も出てこなかった。有田焼や九谷焼は知られていたのに。でも美濃焼は、日本最大の陶磁器の産地。”価値がない”んじゃなく”知られていないだけ”だと踏みました。結果、SNSで写真が広がって、海外でヒット。7年かけて、検索される言葉を市場に作りました。
共通するのは、中国製とまともにぶつからないこと。”日本製”の看板で戦うんじゃなく、市場に合わせて選ぶ。これが「Made to Fit」です。
英語より、動画とレビュー——”お客様が売ってくれる”
最後に、これがいちばん言いたいことかもしれません。
私たちも最初、商品ページに「日本製」「匠の技」「正真正銘」と、一生懸命に書き込んでいました。売れなかったわけじゃない。でも、”この言葉のおかげで売れた”とは、言い切れなかったんですよね。
流れが変わったのは、お客様が動いてくれたときでした。
業務用のロングピーラーを買ってくれたプロのシェフが、じゃがいもをひたすら剥く動画を投稿してくれたんです。音声なし。シャッ、シャッ、と皮が飛ぶ音だけ。——それだけで、この商品がロングセラーになりました。
レビューもそう。「$44だから中国製の偽物か、品質が悪いだろうと思っていた。でも、仕上げが素晴らしい」。こういう一言が、次のお客様を連れてくる。
15秒の動画は、英語の説明文より伝わる。そして、わかる人のレビューが、また次の”わかる人”を呼ぶ。これが、いわゆるUGC——お客様自身が作ってくれるコンテンツの力です。
だから、SNSは”運用して発信する場”というより、この”お客様が売ってくれる”が生まれる入口。全部やる必要はありません。自分の商品と相性のいい媒体を、1つ。そこから始めれば十分です。
アメリカはもう、”AIに聞いて”買う
もう一つだけ、最近の話を。
いまアメリカでは、AIチャットに聞いて買うという流れが、急速に広がっています。Amazonには「Rufus(ルーファス)」、Walmartには「Sparky(スパーキー)」というAIがいて、「こういう料理に合う包丁を探してる」と話しかけると、AIが商品を選んでくれる。
正直に言うと、私たち自身、この変化への対応はまだ遅れています。AI経由でどんどん売れている、という実感も、まだそこまで強くはない。
でも、確実に来ています。これからの商品ページは、”人が検索する”だけでなく、”AIが理解しやすい”ように作っていく必要がある。——この話は、また別で、じっくり。ここでは「そういう時代が来てるらしい」と、頭の片隅にでも。
グローカル×AI×EC——これからの話
長くなりました。ここまでが、北米越境ECの「全体像」です。
もう一度だけ。「日本製であれば、海外でも売れる」——残念ながら、そうじゃない。売れるかどうかは、正しい順番で、利益まで設計できるかで決まる。それができる人にはチャンス、できない人には向かい風。実力の時代です。
そして——私がいま面白いと思っているのは、この越境ECの現場に、AIを掛け合わせること。地方の商品を、世界へ。その”焼き直し”を、これからここで書いていきます。
まずは、一つ。あなたの商品を、どのカテゴリの、どの順番で出すか。そこから一緒に考えていきましょう。
(次回から、この12の話を、1つずつ深掘りしていきます。)
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